関西学院大学探検会

秋山合宿in比良山報告書 
坂井洋右





ほんの心配

ちょっと不安だったのだ。パーティーを組んで山に行くなんて何年ぶりの事なんだろう。歩けるんだろうか、歩き方を忘れてしまってるんじゃないだろうか。いや、それよりパーティーの足を引っ張るんじゃないだろうか、っていう不安が大きかった。明さんはもちろん、安東さん、早川さんはかなり山にいっている。古賀、福山、えっちゃんも夏にヘビーな山行を経験している。一番最近山を歩いたのって、六甲ナイトハイクじゃないかー。比良山、楽しめるのだろうか。


出発

台所のなべに引っかからないように気をつけながら、ザックを玄関まで引きずる。履こうとしている靴は、去年の春学期に買ったトレッキングシューズっぽい見てくれの、フィット感もくそもないただの靴だ。あー、六甲ですらしんどかったこの靴、比良で役に立つんだろうか。
ドアを開けると、もう外はだいぶ暗くなっていた。考えていたより出発が遅くなってしまった。急がなければ集合時間に間に合わないかもしれない。


負傷


ほとんど寝ているまんまの頭で電車から降りる。うたた寝をしていたようだ。比良駅についていた。ひんやりした人気のないホームを、みんなの後ろを歩き出す。と、福山が振り返って言った「あ、坂井さん、電車の中、忘れ物!」。ぼんやりした頭のなかにフラッシュが光る。快速はドアをとっくに閉め、動き出そうとしているところだった。追いかけたところでどうしようもないのだろうが、私は電車に向かってダッシュした。駆け出した私の背中に、福山が叫ぶ「う、そ、。」足がもつれ、ザックの重みが背中にかかる。上体が加速しながら地面に迫る。あぶない!。オートマティックに腕が防御態勢に入る。が、私はまだ少し寝ぼけていたようだ。手のひらではなく、甲の側が地面についてしまった。結果、左手薬指をすりむく。


就寝

テントを張り終え、寝る準備に入る。
コンビニに寄り、どうもだらだらしたアスファルトを歩き、イン谷口に着いたのは10時半頃だ。自販機は近いし、近くに水場はあるし、地面はフラットだし、いいテン場である。
みんな、テント、どうやって寝る?、安東さんがたずねた。
ここで、ちょっと個人的な問題にあたった。ここんとこ二日ほどまともに寝ていない。寝たといえば、図書室の机に突っ伏してたくらいである。しっかり寝なければ明日の山行はつらいだけのものになるんじゃないだろうか。そして、古賀がいた。 
平和的話し合いの結果、私がはしっこ、反対側の端に古賀が寝る事になった。すべてはうまく行くように思われた。
翌朝、目が覚めると古賀が不満そうに「坂井さん、問題ありや。」といった。そう、あろうことか私がいびきをかいてみんなに迷惑をかけていたのだ。「えー、あー、うー、そうなん、ごめん。」としか言えなかった。みなさん、申し訳ない。いびきをかかない良い方法があったら教えてください。


てくてく

私が出発準備ができたときは、みんなすでにザックを背負い、歩ける状態になっていた。少し焦り、ザックを背負い歩き出す。5分も歩くと、どうもしんどくなってきた。Tシャツ、フリース、かっぱを着込んだ上半身は暑いし、靴はフィットせずかぱかぱいっている。パーティーから遅れはじめる。やはりきついな、とか思っていると、休憩にはいった。歩き出しておよそ15分である。
紅葉が鮮やかだ。薄着になり、靴を履きなおした私には、木々のいろづきを楽しむ余裕が生まれていた。季節を楽しむには山を歩くのが一番かもしれない。
ちょっとうきうきしている自分に気づく。ガレ場 を上っているのだ。青ガレを上りながら、息はあがっているのだが、そのちょっとしたスポーティーさに快感を覚える。
金糞峠をぬけ、あっというまに八雲キャンプ場につき、昼食をとり、武奈ヶ岳にむかう。壁が、いい。武奈ヶ岳にむかう、切りとおしのような道を登る。この切りとおしの壁には、うっすらと、しっとりした苔が生えている。まめに掃除された古い家の、湿り気のある、しかし清潔な空気のような気持ちよさが感じられる。


トラブル

「あれ?あいてる?ん?なんで?。」
武奈ヶ岳をくだり、ひとつめの分岐を過ぎ、小休止をとった。あたりは葉のなくなってしまった落葉樹の林がひろがっている。裸の林は、好きだ。いい撮影ポイントはないだろうか。ザックの天蓋からカメラをだそうと、ファスナーに手をかける。
蓋が開いていたのだ。カメラの、フィルムを入れるところの蓋が。峠が、壁が、武奈ヶ岳が。何故だ、何故だ、何故なんだー。


コヤマノ岳をぬけて

速い、ついていけない。少し前をゆく古賀も一言も言葉を発さず、ただ汗を流している。
今回、福山とえっちゃんは地図を忘れていて、一度も先頭を歩いていなかった。コヤマノ岳への登り口の分岐で、私は地図を福山に渡した。彼女がトップになった。続いてえっちゃん、古賀、四番手に私。
福山とえっちゃんのペースはそれまで比較的遅かったように思えたのだが。先行するふたりの姿は、完全に視界から消えている。後続もついてきていない。汗がにじんできた。なんで?


大橋小屋へ

出発時間を決めない、悪く言えばだらだらした、しかしゆったりした心地の良い休憩を終え、古賀を先頭に迎え出発した。
しばらくして、古賀が私に言った。「このまんまじゃ、テン場に着くのん、ちょっと遅くなるかもしれませんね。」「え?行けるやろ。4時には大橋小屋つくで。」「えー、いけますか?」「うーん、いけるって、ほんまに。なんかかけよか?ピノ でどう?。」「いいですよ。」
おにぎり岩の手前あたりから、下りがきつくなる。等高線に垂直な道だ。月見岩を過ぎ視界が開けると、長い、ちょっとしたガレのくだりがあった。時間は残り30分ほど。コースタイムで見るとぎりぎりだ。一人先を急ぐ事にした。ぐりぐりっと下る。ぐりぐりぐりぐり。気持ちいい。立ち止まり振り返ると、重いザックを背負っているにもかかわらず、明さんが付いてきてくれていた。山では一人突っ走ることは危険だし、迷惑でもある。皆さんごめんなさい、明さんありがとう。
ガレを下りおわると緩やかな道が続いていた。ゆっくり歩くとなかなか楽しめそうだったが、時間が無い。さくさく歩く。すると、5分もしないうちに大橋小屋に到着。古賀よ、ピノはもらったぜ。


ディナー

鍋はいい。大橋小屋のそばにテントをはり、お楽しみの明さんプロデュースのディナータイムが始まる。大量の白菜、豚肉、えのき、海鮮などの鍋だ。寒い時期の山中の鍋は素敵だ。幸せ。いいなあ。おなかいっぱい。
食後、早川さんと福山、えっちゃんは小屋のおやじさんと一杯やりに行ったらしいが、私は就寝。呼んでくれよー。


山上駅まで

翌朝、朝食を済ませ、モーニングコーヒーをすすり、出発。え、もうここが比良岳山頂?、という感じでピークも過ぎ、秋と冬の間の山を堪能しながら歩く。落ち葉を踏みながら歩く。さく、さく、さく、さく。さく、さく、さく、さく。さくさく歩きは山の醍醐味の一つだ。まったく久しぶりの感覚を楽しみ、写真を撮り、行動食を、いや、お菓子を食べたりしながら山上駅に着く。


負傷2

山上駅のわきで昼食のラーメンを食べ、到着時に既に目をつけていたそりで遊ぶ。
雪の無い、芝のゲレンデにプラスティックのネットがはってあり、そしてそりがあった。これは、遊ぶしかない。2、3の家族連れがいたが、気にしてはいけない。早速そりに乗り、滑る。かなりのスピードが出る。おー、いいぞいいぞ、とか思っているうちに姿勢が崩れ始める。このままではいけないと判断し、横転してロールで受けようとする。が、そりは私の意志に反抗し、私のひじが斜面に浅い角度で接触。負傷する。誰にも言えなかった。


ゴンドラ

ただ、一度乗ってみたい、別に楽をしたいわけじゃない、違った視点で山を見てみるのもいいんじゃないか、といった理由で、全員の意見が一致。ゴンドラを利用する事になる。
速い速い。わずか8分でふもとに到着。高い料金払ってるのだから、もっと景色を楽しませてくれてほしかった。およそ一分あたり百円のぜいたくだった。



山の幸せフルコースをいただいた山行だった。たまにはこんなつつがない合宿もいいんじゃないだろうか。

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